春よこい

3月の半ばだというのに少し前にはかなりの降雪があった
この日も薄日は射すもののまだ暖かくなりきれていなかった
僕は両手をポケットに入れてうつむき加減に歩いている

閑静な住宅街の道の角を曲がると保育園がある
道を曲がったところで少し先の方に小さい女の子が母親に手を引かれ歩いているのが見えた
保育園からのお帰りかな
向こうから孫を迎えに来たらしい少し老いた夫婦がやってきた
女の子は元気にその老夫婦に挨拶をしている
おじいさんたちもまた元気にあいさつをし
少しの言葉を交わして園に消えていった
そんな二人を確認し、またうつむいた

母娘

内容はわからないけれどよく喋る
女の子はみんなそうなんだ と改めて思う
僕の歩く速さは普通だが母と娘に徐々に追い付いてきた
聞こえている話声の大きさでわかる

こんにちは

と聞こえた気がして面を上げると随分距離が縮まってきていた
目が合って今度は大きな声で

  「こんにちは」

と振り向いて挨拶をくれた


少し軽く困惑


母を見るとおだやかに微笑んでいる

  「       」

僕は女の子とその母親に微笑みで返すだけで精いっぱいだった




  春よ来い 早く来い 歩き始めたみぃちゃんが

 赤い鼻緒のじょじょ履いて おんもに出たいと待っている


僕はその母娘たちを追い越す事なく
1つ手前の筋を左に曲がった